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お茶を注ぐのも忘れて空のコップをテーブルに置くと、姉の顔を上げさせる。
いつも笑っていて欲しいと思っていたその顔が曇り、いつもの柔らかで人を安心させる笑顔は影を潜めていた。
「……取引相手の家に嫁げって」
時代錯誤なその言葉が理解できず、頭の中でゆっくり噛み砕いてから考える。
「政略結婚?…しろって事?ジジィ何考えてんだ!」
テーブルに拳を振り下ろすと、姉がびくんと身をすくめた。
「あ…ごめん……」
「…うぅん……私こそごめんね、急に言われて驚いちゃって。圭吾に聞いてもらいたかったの」
倒れてしまったコップを直しながら、独り言のように呟く。消えてしまいそうな姉の姿に、堪らなくなって口を開く。
「…あんな家出てさ、オレと暮らそう。もっと広くていい所借りるからさ。姉さんくらいなら養えるよ?そりゃ…実家と同じには行かないだろうけど…」
ぱっとこちらを向いた姉は、小さく肩をすくめながら笑う。
「違うの!……大丈夫、驚いただけなのよ」
「姉さんが、あんな家の犠牲になる事ないっ」
姉は困ったように笑い、昔したみたいに優しく頭を撫でてくれる。
「家の犠牲になるわけじゃないわ」
そう言って笑った姉の顔は、小さな頃から大好きだった優しげな笑みに戻っていた。
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