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「あー…いろんな事にムカつく!クソッ!カマじゃねぇよ、ゲイだよ、糞ジジィ…別物だろうが、分かってねぇのに言うなっ」
小さく悪態をつきながら待ち合わせの像の場所へ着くと、あの生真面目が服を着たような佐藤の姿はどこにも無い。
「あぁ?」
苛々としながら時間を確認するために携帯を開くと、メールが一通届いていた。
『少し遅れます。待っていて下さい』
苛々が更に募り、携帯を投げつけたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えて像の足元に腰を下ろす。
頭を抱え込んで低く「帰ろうか…」と呟く。
流石のオレも、今日はそんな気分になれなかった。
一応長男であるオレは、父の会社を継ぐ義務があるのだろうが、ゲイだとカミングアウトして家を追い出された際、継ぐ義務も、それによって受ける事が出来る恩恵も全て放棄した。
ゲイだと告白した時も、家を出てからも、姉だけは味方になって何かしら気に掛けてくれていた。
そんな姉に、オレのせいで無理矢理な結婚を強いてしまっているのかと思うと、恩を仇で返していると言う事実に目眩がしてくる。
ぱぁんっ
落ち込んだ頭には、すぐにそれが何か分からなかった。
「?」
きょとんとして顔を上げると、軽そうな頭の男が、軽そうな相手に頬を張られているのが見える。
叩かれている方は、良く見知った顔だった。
「あいつ…」
何事か言い合うと、叩いた方の男はぷいっと踵を返して帰って行く、一人残された男はバツが悪そうに自分を見ている観客達を睨みつけ、ふとこちらに目を留めた。
うぁー…うぜぇ。こっちくんな。
わざと目を逸らして携帯画面を見つめると、案の定傍で立ち止まる気配がした。
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