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「あつ…」
木陰に入り、花壇の端に座り込む佐藤に倣って腰を下ろす。
うっすらと汗をかいた横顔をちらちらと盗み見ると、ネクタイを緩めながらこちらに首を傾げてくる。
「どうかした?」
「いや、…走ってきたのかなって…」
「待たせてたから。もっと早く来てたら、あんなのに絡まれなかったのに…悪かった」
頭を下げる佐藤に驚き、その肩を掴んで顔を上げさせる。
「いや…その……自分が蒔いた種だから…」
もごもごと口の中で言い訳しているのが恥ずかしくなって、顔が赤くなってくるのがわかる。
「……暑いな。顔、真っ赤になってる」
「これは…暑い訳じゃ…」
「じゃあ、涼しい所、行こうか」
真面目な佐藤にしては気の利いた誘い文句に、オレは二つ返事でOKした。
「…で?」
「ここのチーズケーキが絶品なんだそうだ」
「ああ、そうかい」
微かに檸檬の風味の漂う水を飲み干し、目の前に座る佐藤を睨み付けると、きょとんと返される。
確かに涼しいよ。
確かにな。
…あの流れでカフェとか…ねぇだろ?期待したオレの純情返せよ。
「機嫌悪そうだね。甘い物は苦手だった?」
「好きだけどさっ」
もっと好きなもんがあるんだよ、オレは!
「ちょっとデートみたいだろ?」
「はぁ?」
不貞腐れながら、ウェイトレスの持ってきたチーズケーキにフォークを突き刺す。
「覚えてる?以前言った事」
「ん?」
ちらっと目をやると、佐藤は持っていた艶のある紙袋から小さな箱を取り出す。
嫌な予感がして、思わず背筋がぴんと伸びる。
「付き合ってくれないか」
的中した予感に、思わずフォークが足元に転がり落ちた。
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