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 箱に刻まれた『Kete』のブランド名は、オレでも知っている物だ。  中から取り出された銀の光る輪は、安っぽかった前の指輪とは明らかに違う光り方をしている。 「君と同じ名前のブランドがあるって聞いたから…気に入らないかな?」 「…ば…ばっかじゃないのか!?」  そんな重い事をされても、正直困る。  オレはその指輪の価値に見合う程の期間を、佐藤と付き合う気はなかった。 「サイズは合ってると思うんだが…」 「そう言うんじゃなくて…」  突っ返そうと言葉を探したが、柔和な微笑を浮かべているその唇を見ている内に、反対の言葉を見失った。 「……なんでこんな高そうなもん…」  仕方なしに文句を言うと、微笑みながら佐藤が指輪を左手の指に嵌めてくる。 「受け取ってくれるかな…?」  つるりとしたシンプルな指輪の表面を撫で、佐藤の顔と見比べ、なんと答えていいか分からずに眉尻を下げる。  サイズもピッタリだし、そのデザイン自体オレの好みのど真ん中だった。 「…」  外してテーブルの上に置くと、佐藤の目が不安そうに揺れる。 「…さっき前彼が言ってた事聞いてたろ?オレ、ヤれればそれでいいって人間なんだよ。今までさんざんいろんな男と関係持ってきてんだぜ?」 「…」  引き結ばれた肉厚な唇の感触を思い出す。  その感触が、良すぎたから…気が迷ったんだと思う。 「……そんなんでいいの?」  佐藤がもう一度嵌めてきた指輪を見て、小さな笑いが漏れた。

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