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迷惑をかけた看護師に頭を下げ、病院を後にする。
「これで貴方が脱走しやしないかって、はらはらしなくて済むわ」
年長の看護師はそう言って豪快に笑う。
入院中、オレは何度も病院を抜け出して佐藤がどこに運ばれたか探そうとした為、最終的には姉が泊り込んでオレを見張っていた。
「ここでいいよ。携帯ショップにも寄らないといけないし」
「じゃあ、心配だから、ついて行くわ」
使っていた携帯電話は、残骸と言っていいような状態で手渡された。事故に遭ったのだから仕方なかったが、佐藤の番号を控えていない為、オレは連絡を取れずにいる。
「お友達と連絡、取れるといいわね」
姉は方々を駆けずり回って佐藤の行方を捜してくれたが、事故に巻き込まれた中に佐藤姓の者は見付からなかった…と返された。
ああ、佐藤は偽名だった。
今更の事を思い出してどっと落ち込む。自分自身偽名だと言うのに、相手に何を求めていたのか…
佐藤との関係が上辺だけのものだったような気がして唇を噛む。
「ああ、これも返しておくわね。貴金属だから預かっていたの」
右掌に置かれた銀色のリングを見て、やっと一筋の涙が零れた。
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