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 ひと月ふた月と経つ内に、左手の指輪を見る回数が減っていった。  大学に、バイトにと明け暮れる日々に追われ、会いに来るかもしれないと言う期待は薄らいで行き、今ではぼんやりと時折思い出すだけになっていた。  それでも、指輪を外せずにいる自分に侮蔑の笑みが漏れる。  あの事故の日以来、男に抱かれる事もない。  忘れようとしつつも、どこかで待っている自分が馬鹿に思えてくる。 「西宮さん?ああ、前に言ってた人か…」 「そう。家族の顔合わせなんだけど…来てくれるわよね」  姉は当然そうに言うが、問題は他にある。 「親父は?何て言ってるの?行ってもいいって?」 「ん…男の服を着て来いって」 「オレは別に女装したいわけじゃないんだけどな」  そうぼやいて溜め息を吐く、姉の事がなければフル装備の女装で乗り込んでやってもいいのだが…幸せそうな姉の顔を見るとそう言う訳にも行かない。  あんなにも落ち込んで見えた雰囲気は今ではすっかり影を潜め、会う度に恋をするに相応しいキラキラと眩しい笑顔を見せてくれるようになった。 「成人式用に買ったスーツでいい?」 「十分!堅苦しいのはやめにしましょうって言ってるのに、ホテルなんか予約するんだもん…」 「張り切ってるんだろ?オレが出来ないからな」  こう言った所でも、姉に皺寄せが行っているんだな…と感じて肩をすくめる。そんなオレに出来る事と言ったら、せいぜい姉の結婚が破談にならないように大人しくしておくだけだ。  会う度に生き生きとしてくる姉を見ていると、西宮と言う相手は悪い人ではないのだろう。 「じゃあ次の日曜だからね、遅れないでよ?」 「オレ、時間には細かいよ」  そう言って姉と別れ、一人アパートへの道を歩き出す。  華やかな姉の笑顔を思い出し、佐藤がいた頃はオレもあんな顔で笑っていたんだろうか…と小さくごちた。

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