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着慣れないものを着ると、スーツに着られている気がするから不思議だ。
鏡の中の自分が、七五三のお参りにでも行く子供か、出来の悪いホストのように見えて苦笑いを零す。
「黒髪って久し振りだなー…」
この日の為に髪も少しさっぱりとさせ、黒髪に戻してあった。
「なんだかそこまで髪が黒いとおかしな感じね」
「オレも姉さんも、昔からちょっと茶色が入ってたからね。ハーフっぽいとか言われて、ちょっと嬉しかったなぁ」
くすくすと笑う姉に、肩をすくめて見せる。
その後ろにのっそりと現れた父を見て、オレはすぐに笑顔を引っ込めた。
「大人しくしてるんだぞ。先方にお前の性癖を知られたら破談だからな」
「…」
軽蔑の眼差しを睨み返し、はらはらとしている姉に微笑む。
「ごめんね、嫌な思いさせて」
「そんな事ないよ。圭吾を紹介できて、私は嬉しいもの」
晴れ着に相応しい笑顔を見せる姉と共に、ホテルのロビーに向かった。
「西宮さんってどんな人?」
「背は圭吾より高いかな…真面目な人よ」
「オレより高い奴なんて一杯いるから」
そう言いながらも、自分より背が高いと聞いてホッと安堵の息が漏れる。仮にも兄と呼ぶ人を、見下ろさなければならないのはあまりいい気分ではない。
「……」
目の端に入った人影にはっとする。
「………っ」
柱に隠れてしまったその人陰を追うように飛び出すと、その人物はこちらへと向かってきていた。
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