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「今は西宮だよ」 「…なに…言って……」  そう言いすがろうとして止める。  こちらを見る佐藤の冷ややかな目に気付いてしまったから… 「すみません…なんでもないです」  立ち止まったオレを置いて、佐藤はトイレへと姿を消す。  理由はわからない。  けれど、西宮と名乗ったのなら、佐藤はオレとの事を無かった事にしたいのだろう。  現に、佐藤ははじめましてと言った。  それだけで十分だ。  あんなにも求められていると思ったのは、錯覚だったんだろう…  もう、十分だ  オレは左手の指輪を外して、胸ポケットへとしまった。

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