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砂を噛んでいるようなホテルでの食事が早く終わる事を祈りながら過ごし、やっと解放された頃にはくたくたになっていた。
「秋良さん、どうだった?」
全てが灰色に見える世界の中、唯一の救いは姉が幸せそうな顔をしている事だった。
「いい人そうだね」
お決まりの台詞を絞り出すと、姉は安堵の表情を見せる。
「よかった、圭吾もそう思うんだ」
「…うん」
早くその場を離れたくて、一言そう返してタクシーに乗り込む。
「また電話するわね」
嬉しそうな姉に手を振り、運転手に行き先を告げる。
「駅裏にある『gender free』って店に行って下さい」
今、あのアパートに独り帰る気分にはなれなかった。向かう先がバイト先と言うのが情けなかったが、居心地がいい場所を…と思い浮かぶのはそこだけだった。
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