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 間接照明に照らされた煉瓦作り風な階段を下りて行くと、木製の『gender free』と小さく書かれた扉が出迎える。  扉を開けると、カラン…と涼しげな木製のベルが頭上で鳴り、店長に来店を告げた。  カウンターの中にいる店長が、訝しげな顔でいらっしゃいと言いかけた口を噤む。 「今日はバイト入ってないよ?」 「今日はお客さんですよー」  そう言いながら飴色のカウンターに腰掛けると、店長が目の前に来る。 「何にしよっか?」  浅黒い遊び人風な店長の、へらへらとした笑顔に向かい、 「テキーラ」  とぶっきらぼうに告げると、珍しいね…と言いながらもサウザ・ゴールドを塩とライムと一緒に出してくれた。 「バケツで持ってきてよ」 「無茶言うなー」 「業務用サイズで」 「ないって」  左手に塩を出し、ぺろりと舐めてテキーラを含む。 「っ……ゔー…」 「慣れないの飲むと酔いつぶれるよ?」  グラスを拭きながら忠告してくれる店長を、じろっと睨み返す。 「あはは、酔う前から絡み上戸だね。スーツなのと関係あるの?」 「…ない」  ないわけではないが、あるとも言えない。 「指輪してないってのが本命?」 「…うん」  レモンを舐めながら更にテキーラを呷ると、石の様に凝り固まった気持ちが微かに浮上した様な気になった。 「酔い潰れるなよ?お持ち帰りされてマワされちゃうぞ~」 「いいよ、別に」  つん…とそう言うと、店長はぎょっとしたのが分かった。 「いいよ、もう…別に操立ててた訳じゃないし…」  そう呟き、また一杯呷った。

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