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 手の中から、グラスが滑り落ちた感覚で目を開ける。いつの間にか隣に座っていた男が、カウンターにぶつかる寸前で受け止めてくれた。  とろりとした目を向ける。  趣味じゃない。  優男風なのも、眼鏡なのも…唇が薄めなのも… 「どうかな?」  耳元で囁かれ、考えるよりも先に頭がコクりと揺れていた。  趣味じゃないが、今夜は傍にいてくれる。  男が腰に手を回し、店を出ようと促す。それに応えて立ち上がろうとした時、浅黒い手がオレの腕を掴んだ。 「ごめんなさーい、その子、俺のお手付きー他当たって?」  へらっと笑いながら、店長がオレを男から奪い取って抱き締める。  温くて逞しいその胸に擦り寄って目を閉じ、頭上で聞こえる話をぼんやりと聞いていた。 「店員には手を出さないって言ってなかったっけ?」 「ふふ。この子は特別~」 「特別…ね」  男が食い下がろうとしていたので、鬱陶しいなぁと思いつつ目を開けて爪先で立ち、店長の唇に吸い付く。  驚いて薄く開けられた口の中に舌を入れ、歯列をなぞりながら、舌を探す。清涼感のあるその息を含み、唾液を絡ませてぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てる。 「…っんー…こら、それは後でね」  ぽんぽんと頭を叩かれ、唇を離す。  店長とオレとの間に伝う唾液を見て、男は肩を竦めて店を出て行った。

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