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「てんちょー着替えくださーい」
「ソファに出してあるよ。もー!せめて隠して出てきなさい」
真っ裸で出てきたオレに、目くじらを立てた店長が喚く。男同士だからいいだろうと思うのに、妙な所で繊細な人だ。
「黒髪のケイゴって慣れないなぁ」
「当分黒ですよ。染め直すのも金かかるし」
店長の方がガタイがいいせいか、出されたシャツを着るとぶかぶかで、ちょっと幼くなった気分になる。
「そんなケチらなくちゃならない程給料少ないか?」
「オレ学費も自分で出してんですよ、余裕なんてないない」
「ああ、苦学生だったっけ」
頷きながら素麺の並ぶテーブルに座る。出来立ての錦糸卵を並べ終えると、店長は手を合わせた。
「はい、食うぞー」
「いただきます」
つるつると喉越しのいい素麺を啜りながら、ふと思ったので店長に尋ねてみる。
「どうします?オレ、バイト辞めた方がいいっすか?」
「え?いいよ、別に。俺が前からケイゴ狙ってたのは皆知ってるし」
ちゅるんと素麺を吸い込み、は?と問い直してみる。
いつもはへらへらとしているタレ目を珍しく真剣にこちらに向け、肩を竦めた。
「気付いてないのは君だけぇ」
「うそぉ!?」
そう言った事に疎い方ではないはずで、狙われているなら何かしら気付いたはずだ。
大学に入ってからずっと働いているが、今までそんな事露ほども感じた事はない。店長が店員には手を出さない主義だと言っていたせいだろうか?
「遊び相手には敏感だけど、本気の相手には鈍いよね」
「そ、そんな事ないですよぅ…」
多分。
今まで、ラフな付き合いしか目指してなかったからなぁ…
「で?どう?」
「はい?」
きょと…と首を傾げると、店長の眉がぴく…と動く。
「それ、わざと?」
「は?」
「君がフリーになるのずっと待ってたんだけど」
「オレ、しょっちゅうフリーでしたけど?」
左手をとんとん…と示され、顔をしかめた。
「なんだかんだと、切れた事ないでしょ。今回は珍しく、後引いたみたいだね」
「…」
唇をへの字に曲げて黙り込む。
「相性は悪くないと思うんだけど」
「あー…酔ってて覚えてないっす」
「それは…遠回しに断ってる?」
「え!?あ…いえ……えーっと、よろしくお願いします?」
そう返事をすると、店長は男らしい笑顔を見せてくれた。
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