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お店側とドレスの事で話があるからと、先にカフェに向かっているように言われて店を出る。
「あっついなぁ…」
どの店にするかはオレに任されていたが、まだ強い日差しに、もうすぐ結婚式を上げる姉を長時間晒したくなかった。
携帯電話に目を落とし、近場のカフェを検索する。
とん…と肩を叩かれ、用事が終わった姉だろうと画面を見ながら振り返った。
「どこ行こっ…っ!!」
微かに額に汗を浮かべてこちらを見下ろす人物に、知らず知らずの内に後ずさりしていた。何度か見た事があるワイシャツ姿で、ホッとした顔をこちらに向けている。
「よかった。まだ試着終わってないかな?」
「あ…いえ……もう」
「間に合わなかったか…」
残念そうに言う佐藤を見て、バクバクと音を立てる心臓を押さえる。
「姉は中にいますから……オレ、これで失礼しますっ」
踵を返そうとしたオレの腕を、佐藤が掴む。
以前と変わらないその熱い掌に触れられ、どきりと心臓が跳ね上がり、気まずさに俯く。
「待って!時間作ってきたんだ。どうせなら三人で冷たい物でもどうかな?」
どの面下げて、そんな事を言うのか…一方的にオレを捨てていった奴と、お茶を飲みたいなどと本気で思うのか?
奥歯を噛み締め、その顔を睨みつける為に顔を上げた。
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