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 新婦控え室の姉は、チープな言い方をすれば文句のつけようがないくらい綺麗だった。  オレが勧めたドレスに身を包み、晴れやかな笑顔でオレを出迎える。 「馬子にも衣装?」 「自分で言うなよ。えっと……ぉ…お義兄さんは新郎の控え室かな?」 「ええ。挨拶に行ってきてね」  …そう言われれば、行かないわけにはいかない。出来るなら顔を合わせたくなかったが、今日から義理とは言え兄弟になるのだから、まったく顔を合わせないでいるなんて不可能だろう。  仕方なく向かった新郎控え室の扉を開けて中に入ると、両親と一緒に用意を済ませた佐藤が窓辺に立っていた。髪をバックに流し、タキシードを身につけた佐藤がこちらを向く。 「おめでとうございます」 「圭吾君、ありがとう。今日から君の兄として頑張るよ」  そう言ってこちらに笑顔を向ける佐藤を、怒鳴りつけたい気分になったがぐっと拳を作って堪える。すがり付いて、オレの事が分からないのかと問いただしたくなり、こちらを見る佐藤を見つめ返した。 「大丈夫」 「え?」 「そんな顔をしなくても、大丈夫だよ。お姉さんはちゃんと幸せにする。約束するから」  そんな事は大前提だ。  生まれてこの方、あそこまで幸せそうな姉を見た事がない。いつもどこか人に遠慮した様に一歩引いて、自分の事よりも他人の…オレの事を考えてくれる。  そんな姉には、幸せになって欲しい。 「お姉さんを、大事にするから」 「…」  大事にしてくれるのは、知ってる。  馬鹿正直に、真面目に、真っ直ぐに…オレを大事にしてくれたから…  視界が歪んで、気付いた時には涙が溢れ出していた。  ぱた…とスーツの胸元に落ちて、染みを作る。 「あ…」  思わず顔を覆ってダセェ…と呟くと、両肩に手が置かれた。

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