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 肩に置かれたその温かさに懐かしさが込み上げ、堪らなくなってまた更に泣いてしまう。  この手に抱かれていた事があったのに… 「た…頼む…から…」  佐藤のタキシードに縋りつき、「頼むから、思い出してくれ」…と、口をついて出そうになった言葉を飲み込んだ。 「わかった。任せてくれ、お姉さんを泣かしたりしないから」 「…っ」  ぼろぼろと泣きながら首を振る。  そんな事が言いたいんじゃない!…と、叫ぼうとしたがそれも口から出る事はなかった。  両親の前で、オレを抱いただろうと…付き合っていただろうと喚き散らし、顔を覗き込むこの顔に口付ければ…佐藤はまたオレの元に返ってきてくれるだろうか?  しっとりとしたその感触も、温もりも、まだ覚えているのに!  けれどそれは、…姉の結婚式を壊す事になる。  キラキラと、今日こそ姉が人生の中で最も輝く日なのは、誰が何を言おうと揺るがない。  それを…完膚なきまでに叩き潰すなんて、できない。 「お姉さん思いなのねぇ」  黒留袖を着た佐藤の母親が、そう言ってそっと目頭を押さえる。  それに違う…とも言えないまま、仕方なく顔を上げた。 「……すみません、皺になってませんか?」  縋りついたタキシードから手を離して見上げると、いつも向けられていた眼差しと変わらない温かな眼がこちらを見ている。 「大丈夫。でも圭吾君は、顔を洗った方が良さそうだ」 「そうします………失礼します!」  そう言って控え室を飛び出した。

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