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ゆっくりとヴァージンロードを歩く姉に、会場から感嘆の溜め息が漏れる。長いヴェールを引きずりながら歩く姉の神々しいまでの姿に、惨めになって視線を落とした。
身内が最前列なんて決まり、なければ良かったのに…
幾ら視線を落としても、視界の中に磨き上げられた新郎の靴が入ってくる。ちょっと顔を上げれば、嬉しそうな顔をした新郎の顔が見えると言う事は、想像に難くない。
誓いの言葉が間近で聞こえ、オレは異議ありと叫びそうになるのを唇を噛み締めて堪える事しかできなかった。
互いの指に、銀色に光る指輪が嵌められていく。
嵌めないでくれと、叫べたら…
照れながら微笑み合う二人が見詰め合う。
最愛の姉とは言え、あの扇情的な唇に触れている所を見たくなくて目を閉じる。
零れそうになった涙を、感動の涙の様に見せかけながら拭い、オレは悔しさに唇を噛んだ。
披露宴で流される幼い頃の姉と自分の写った写真が酷く寒々しく思え、文句のつけようがない程の幸せそうな結婚式の中で、オレ一人が浮いている気がしてならなかった。
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