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 家電を除いた荷物なんてたかが知れていた。  冷蔵庫やら家電類をリサイクルショップに売り、荷物をまとめると段ボール3箱程にしかならなかった。  ぽつんと部屋に立ち尽くし、空っぽになってしまった部屋を見回す。  玄関で佐藤を出迎えたことも、暑い部屋の中で抱き合った記憶も、「愛している」と言ってくれた事も全て、色褪せる事なく覚えている。  窓辺に腰掛け、夏の色をくすませ始めた空を見上げた。  額に携帯電話を置いてみる。  また、声が聞きたいと念じれば、着信があるだろうか?  名前を…呼んで欲しい。 「ケイ」  玄関から聞こえた店長の声に目を開ける。 「荷物はこれで終わり?…何してるの?」 「感傷に浸ってた」  部屋を改めて見回しながら、しみじみと店長が感想を漏らす。 「昭和レトロなアパートだよなぁ」 「雰囲気あるでしょ」 「雰囲気って言うのかなぁ」  立ち上がり、店長に抱き付く。 「なーんか淋しいなぁ…やっぱやめようかなぁ」 「ダメ!俺楽しみにしてるんだから」  さんざん入り浸って、一緒に暮らしているのと大差ない筈なのに、そう言って頬を膨らます店長に笑いを漏らす。 「冗談!ちゃんと店長の家に行くから」 「いい加減、店長じゃなくて恭司な」 「はぁい」  恭司…恭司…と心の中で何度も呟く。  手が、オレの顎を掴んだ、こちらを見つめる熱い視線に気付いて戸惑う。微かに開けられた唇は、オレとのキスを待っていた。

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