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 ザァザァと、人の囁き声に聞こえるような音を立てて雨は降り続けていた。  雨を理由に、今更断れないだろうかと思案しながら、ケーキ屋の袋に目を落とす。二人が新居を構えたマンションの前に立ち、溜め息を吐く。  入り口で部屋の番号を押し、マンションの入り口を開けてもらって部屋へと向かう。  本当はここには来たくなかった。  姉から何度も遊びに来いと誘いがあったのもすべて断っていた、けれど断る理由も底を尽き、相談したい事があるからと、縋る様な姉の言葉に押し切られてしまった。  相談事… 「…子供が出来たとか…言われたらどうしよう」  考えないようにしていたその事柄をぽつりと言ってしまい、自己嫌悪に陥ってエレベーター前で足を止めた。  傘から雫が垂れて、足元に出来る小さな水溜りを見詰めながら、やっぱり引き返そう…と呟いて踵を返す。  思い切ってしまうと気分は軽やかで、大股で歩き出す。  チン…と背後でエレベーターが開く音がした。 「圭吾君?」  その声に、一瞬気を取られて大理石の床に下ろした足が滑った。 「ぅ!?」 「危ないっ!」  背後から差し出された手が、オレの体をしっかりと抱きとめる。  佐藤の大きな手にしっかりと抱きしめられ、オレははっと身じろいだ。 「このエントランス、よく滑るから…」  体に回された腕を見る。  オレとのペアリングではなく、姉との結婚指輪をしたその手が、ぎゅっと力強くオレを抱きしめた。

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