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「お酒、強くないんだね」
ソファにもたれてうつらうつらと眠り始めてしまった佐藤を見やり、姉にそう尋ねる。
佐藤と会う時は、仕事を抜け出してきた昼間か、車を運転する時かのどちらかがほとんどだったので、酒に弱いとは知らなかった。
知らない事が沢山あった事に気づいて愕然とする。
どう言う育ちをしたのかも、友人の事も、誕生日や、趣味の事も、そんな話をする間があれば、二人で抱き合っていた。今更ながら、もう少し佐藤の事を知っていれば良かったと、その寝顔をぼんやりと見つめて思う。
「片付けて、電気消すわね。そこのブランケット、掛けてあげてくれる?」
「わかった」
傍の棚に置かれていた茶色くて柔らかなブランケットを取り、すっかり眠り込んだ佐藤にそっとそれを掛ける。間接照明に照らされて深い陰影を刻んだ寝顔は、普段の生真面目さを更に際立たせ、厳めしくすら見せていた。
「……」
呼び掛ける名前が分からず、開いた口を閉じる。
西宮さん?
秋良さん?
義兄さん?
佐藤?
…眠る相手が誰だか分からず、その寝顔に顔を寄せる。
「………」
「圭吾」
「…っ」
こちらを見つめて立ち尽くしている姉に、飛び上がって近寄る。
「な、なに?」
「あ…うん、なんでも…」
そう言って伏せられた目は、何かを言いたそうに光を湛えている。
間近で顔を見ていたのを、不審に思われたようだった。
「あの、お義兄さんのこめかみの傷、結構大きいんだね。びっくりした」
右のこめかみを指差してそう言うと、姉はほっとしたような表情で笑った。
「男の人の傷でも、あんまりじろじろ見ちゃダメよ?」
そう言うと、お茶を淹れたから…とテーブルを指差した。
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