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病院を退院してからは毎日が目まぐるしかった。
記憶がなくなってしまった間の仕事の把握に、小夜子との結婚に向けての話し合い、……そして一番オレを混乱に陥れたのは苗字が「佐藤」から「西宮」になっていた事だった。
以前から正式に息子に…と話が上がっていたのは覚えてはいたが、記憶のない間にそれが実行に移されていたのには、ただただ驚いた。
「ネクタイ、曲がってますよ」
背の小さな母がオレのネクタイに手を伸ばそうとするが届かず、苦笑しながら腰を曲げると、嬉しそうに笑う母と目が合う。
「今日みたいな日が来るなんてねぇ」
「ただの顔合わせなのに…そんな事言ってたら、式の時とかどうするの?」
「泣きますよ、勿論、大泣きします!」
そう宣言する母と、緊張した面持ちの父と共に、顔合わせの為のホテルへと向かう。
お互い堅苦しいのは嫌だと話をし、もっと気楽な顔合わせにしたかったのだが、お互いの両親の猛反対をくらって仕方なくホテルで食事と言う事になった。
肩が凝りそうだ…
小夜子と会うのは楽しみだったが、向こうの家族との会うとなると話は別だ。
特に小夜子がよく話す弟の事が気がかりだった。彼にとっては、オレは姉を掻っ攫おうとする人間に他ならない。
「西宮さん、こちらです」
聞き馴染んだその声に嬉しくなって彼女の姿を探す。
そして、小夜子より先に目に飛び込んできた人物にはっと息を飲んだ。
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