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 一目見て彼が小夜子の血縁者だと分かった。  黒髪で、着馴れていないスーツに身を包んでいる青年だ。 「…?」  胸をよぎった寂寥感は、彼が小夜子によく似ているせいだろうか? 「お待たせして申し訳ありません。はじめまして、西宮秋良です、小夜子さんとお付き合いさせて頂いてます」  小夜子のものよりも強い、はっきりとした意志を映した二重の瞳が、こちらを見て鋭くなる。  敵意剥き出しだな…と苦笑しながら、握手してくれないかもしれないと思いつつ、手を差し出してみた。  ゆらりと彼の瞳が揺れ、手が伸ばされる。  どこかぎこちない彼の笑顔と、そのほっそりとした指を持つ手の感触に既視感を感じて戸惑う。  会った事が…ある? 「はじめまして…」  彼のその言葉で、オレの感じた既視感は勘違いだと分かった。  当然だ。  彼の様に印象的な人間と出会ったのなら、忘れる事なんて出来ないだろうから…

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