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小夜子に彼と合流した事を告げてカフェへと足を向ける。彼に良く似合うお洒落な店へと連れてこられ、二人で席に着く。明るい店内の雰囲気は若者向けすぎて、サラリーマン然としたオレには場違いに感じてしまった。
ただ、勧められたチーズケーキは確かに美味い。
「養子?」
彼は山の事が聞きたいと言うよりも、姉の結婚相手に記憶があやふやな部分がある…と言う所が気にかかっているようだった。
少し残念に思いながら、険しい顔をして聞き返してきた彼に答える。
「あれ?聞いてないのかな。佐藤って呼ぶから知ってるんだと思ってたんだけど…」
「養子、なんですか?」
胡散臭げな物を見る目つきに思わず苦笑いを漏らし、珈琲に口をつけた。
「不審そうな顔だね。お姉さんにはもう話してあるんだけど…本当の両親は昔亡くなってね、子供が出来ない伯父達が引き取ってくれたんだよ。ずっと一緒には暮らしてたんだけど跡継ぎ問題が出てね、少し前に正式に養子になったんだ」
「じゃあ…佐藤って名前は…」
「以前の苗字。今は西宮、…まだ慣れないけどね」
肩を竦めてまたチーズケーキを口に入れ、黙りこくり、考え込む彼を見て少し残念に思う。
彼と親しくなりたかった。
その取っ掛かりが出来たと思っていたのだが、身上調査みたいな物だったとは…
少し落ち込んでいると、携帯電話の呼び出し音が鳴った。マナーモードに切り替え忘れていたらしい、画面に表示された名前を見て、ほっと救われた気分になって電話に出る。
「小夜子さん。ええそうです、終わりましたか。ええ、場所は…」
うろ覚えだったが、店の名前と場所を告げ、彼に向き直った。
「お店との話が終わったって。ここに来るって」
「……そうですか」
どこかほっとした顔の彼を見て、また残念に思う。
もう少し、二人で話がしたかったな…と。
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