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普段スーツを着ているのだから…と気楽に考えていたが、それより遥かに堅苦しくてぎこちなく、鏡を覗くと全く似合っていない自分がこちらを見返した。
挨拶にやって来た彼は、どこか憮然としており、姉がオレへと嫁ぐのをよしとしていないようだった。
「おめでとうございます」
「圭吾君、ありがとう。今日から君の兄として頑張るよ」
そう言うと、彼は何か言いたげにぐっと拳を作り、唇を噛み締める。
それで殴られるかと覚悟をしたが、結局その拳は振り上げられる事はなかった。
不安、なのだろうか?
「大丈夫」
安心させたくてそう告げる。
「え?」
「そんな顔をしなくても、大丈夫だよ。お姉さんはちゃんと幸せにする。約束するから。お姉さんを、大事にするから」
「…」
猫の様な形の良い目に水の幕が張ったと思った瞬間、それは決壊してつぅ…と柔らかな曲線の頬を伝い始めた。
彼が…泣いている。
胸が締め付けられ、その体を抱き寄せて慰めたいと言う願望が、体の奥からせり上がる。
思わず抱き締めようとした時、視界の端にこちらを見ている父に気が付いた。
見ている…ただそれだけの筈が、妙な無言の圧力をこちらに投げ掛けている。何故そんな目でこちらを見ているのか分からないまま、オレは抱き締めようと伸ばした手を彼の肩へと置いた。
「た…頼む…から…」
すがり付かれ、それを間近に見ていると妙な気分になる。
それを誤魔化す為に、言葉に詰まる彼に微笑みかけた。
「わかった。任せてくれ、お姉さんを泣かしたりしないから」
はっと彼が目を見開く。
彼を安心させる為に言った言葉なのに、何故彼はこんなにも傷付いた表情をするのか…
「…っ……すみません、皺になってませんか?」
震える程握り込んでいた手を離し、必死に何かを抑え込んだ表情でそう言う彼の、本心を聞きたかった。
この場に二人だけならば…
何をしても聞き出すのに。
「大丈夫。でも圭吾君は、顔を洗った方が良さそうだ」
「そうします………失礼します!」
そう叫び、飛び出す彼を追い掛けたかった。
…けれど静かにこちらを睨み付ける父の視線に、オレは動く事が出来なかった。
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