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 父のあの時の視線がなんだったのか尋ねる事が憚られ、本当の父ならば気楽に聞けたのだろうかと、ぼんやりと考える。  前列の席に座った父は、先程の厳しい顔つきが嘘の様に、そわそわと落ち着かなげに隣の母に話しかけていた。  花嫁の入ってくる扉に目をやると、小刻みに肩を震わせている彼が目に入る。  姉が嫁ぐのがそんなに感無量なのか…兄弟のいないオレにはよく分からない、けれど小夜子と彼の関係は傍から見ても羨ましく思う程仲がいい様に思う。  彼が、こちらにちらりと視線を向けて顔を伏せた。  初めて出会った時の様に小さく蹲って、唇を噛み締めている。 「……え…」 「皆様!温かな拍手でお迎え下さい!」  違和感を感じた時、司会者の高らかな声が花嫁入場を告げた。  思考を邪魔され、否が応でも意識は扉を通って現れた小夜子に向けられる。  その顔はヴェールに隠れて見えなかったが、きっと美しいのだろう。そのはっきりとした二重の目には涙が浮かんで、幸せそうな笑顔をしているに違いない。  一歩一歩、花弁の撒かれた道をこちらへと歩んでくる花嫁に目を細めて微笑みかけた。  美しい花嫁を前にして、違和感などどうでもいい。 「頼むよ」  義父となる人がぼそ…と呟き、その手から小夜子がこちらへと向かう。  互いに照れながら神父の前に並ぶ。  静々と進む厳粛な式とシャッター音と溜め息。  指輪の交換になった時、リングピローから取り上げた指輪が小さ過ぎると感じて動きを止めた。  花嫁の手を掴んだ指先が震える。 「…秋良さん?」  花よりも華やかな笑顔をしていた彼女が、その事を不審に思ったのか小さく問いかけてくる。 「…あ…いや」  その美しい顔を曇らせてしまった罪悪感に慌てながらその指に指輪を嵌めていく。

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