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引き出しの中に無造作に放り込んだ指輪を取り出す。
シンプルなそのデザインは、彼が左手に嵌めていた物と似ている気がした。
「…彼が、ケイト?」
そう自分に問いかけるが返事となる答えを持っていない為、それは小さな呟きのまま口の中で消える。
「どうして…」
彼の名前の入った指輪がここにある?
今日、式で嵌められた指輪を外し、名前の彫られた指輪を嵌めるとこちらの方がしっくりと来る事に驚く。
男がしてもおかしくない様な、シンプルな銀色の指輪を見ながらケイトの顔を思い出す。
焦燥感が、胸の奥でちりちりと燻り始める。
こんな所に、いる場合じゃない…と
「秋良さん、どうしたの?」
微かに開いていた扉の間から、小夜子が声を掛けてくる。
新婚初夜に旦那が書斎から出てこないとなれば、心配もするのだろう。慌てて指輪を嵌め直し、名前の刻まれた指輪をそっと引き出しへと戻す。
「なんでもないよ」
これからの事を考えてだろうか、少し照れたような彼女の待つ廊下へと向かった。
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