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「…引っ越し?」
「ええ、手伝いに行って来ようと思って…」
手渡されたネクタイを締めながら、ケイトの顔を思い出す。
「オレも仕事の後、人と会う予定だし、ついでに実家に顔でも見せてきたら?」
そう言うと、小夜子は戸惑うような、困ったかのような顔をした。
考えている事を察して、言葉を続ける。
「式のにも来てただろ?髭面の…」
「ああ…えっと…なんておっしゃったかしら…」
「あいつと会ってくる」
小夜子はこちらをじっと見つめた後、小さな笑みを作った。
「そうね…お言葉に甘えて、実家に遊びに行ってきます」
「うん…お義父さんとお義母さんに宜しく。じゃあ行ってきます」
ぱたん…と扉を閉めて駐車場へと向かう。車へと乗り込みながら、小夜子が見せた表情を思い出して奥歯を噛み締める。
あんな表情をさせてしまっている自分が情けないと思うのと同時に、苛立ちも感じていた。
彼女は不安なのだ…
未だ純潔である自分が…
イライラをぶつける様にハンドルを叩き、その上に額をつける。
彼女の事を大事だと思うし、愛しいとは思う…けれどモノが使えなくては何もできない。
彼女の優しさなのか、言うのが憚られているだけなのか、のらりくらりと同衾を拒否するオレに彼女は何も言わないが…
「愛人がいるとか…思われてそうだな…」
彼女が作った困ったような顔をもう一度思い出し、溜め息を吐いてゆっくりと車を発進させた。
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