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 無精髭のない悪友を見やり、なんとなく落ち着かない気分になる。 「なんか変な感じだな」 「まぁ、仕事でな。イイ男だろう」  つるりと顎を撫でる仕草に苦笑を返し、居酒屋の座敷に腰を下ろした。注文を取りに来た店員に、烏龍茶を頼もうとしたのを止められる。 「生二つ!持ってきて!」 「オレ車なんだ」 「代行頼めよ。じゃ、よろしく」  さっさと手を振って店員を追い返すと、テーブルの上のジョッキを飲み干した。 「久し振りに付き合え」 「…病院に運ばれたらどうするんだ」  ニヤニヤと笑った誠介は、突き出しの南蛮漬けを口に放り込みながら意味有り気にこちらに視線を寄越してくる。 「運ばれた方がいいんじゃないか?新婚なのにさぁ、男友達と飲みってどうよ?」 「別におかしくないだろ」  何かを見透かされたような気がして憮然と言い返すと、小さく肩を竦め返された。  煙草を咥えて火を点けようとする誠介に尋ねかける。 「……ケイトの事だが、どうしたらいい?」  ぴく…と眉が跳ね上がる。  ふてぶてしい目がこちらをじろりと睨み上げた後、煙草を吐き出して言う。 「思い出した訳じゃねぇならカマかけんな。俺は喋んねぇぞ」  駄目だったか…と呟いて運ばれてきたビールに口をつける。 「思い出さないわけじゃない。ケイトが誰かは…分かったんだ。何があったかが、思い出せない。知ってるなら教えてくれないか?」 「いや…誰か分かったってんなら…なぁ…その、何があったかも思い出すだろ?」  首を振り、口の中に広がるビールの苦味を堪える為に眉を顰めた。いつまで経っても、この苦味を美味いとは思えない。 「……ケイ、ああ、ケイトか、連絡が来たのか?」 「連絡も何も…彼は義弟だ」  ぐふ…と奇妙な音を立てて誠介が煙を吐き出す。何故咽る必要があるのか分からず、怪訝な顔をしていると涙で目を潤ませながら睨みつけられる。  何故? 「やっぱ忘れとけ」 「思い出しかけてるんだ!」 「素直に嫁さんのトコ帰ってろ!」 「帰ったって…」 「…帰ったってどうせタたねぇし…か?」  反論出来ずにぐっと言葉を詰まらすと、盛大な溜め息がこちらへ寄越される。  覚悟を決めたような固い表情に、オレは居住まいを正した。

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