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「………お前、嫁さんどうすんだ?」 「なんでケイトの事を聞いて彼女をどうする話になるんだ?」 「あーほ。どうする話になるから聞いてんだろうが。鈍チンめ」 「はぁ?」  素っ頓狂な返事を返しながら、ざわ…とした物が胸の奥にせり上がって来るのを感じ、戸惑いを隠せずに俯く。 「オレが持ってた指輪って…ペアリングか?」 「ああ」 「…彼がしてる指輪には…オレの名前があったりするのか?」 「まぁな」 「…………オレと…彼の関係って……」  男同士のそう言った行動がよく分からず、店内以上に騒がしい頭の中で懸命に整理しようと努める。 「待ってくれ…オレには彼女が………」  ぷか…と紫煙が吐き出された。 「彼氏もいたんだ」  ざぁ…と、冷水を頭から掛けられた時の様に全身にひんやりとした物が流れる。  よく理解できない思考を抱えたまま、目の前のジョッキを一気に流し込み、空になった器をテーブルに叩き付けた。 「な?なかった事にして忘れちまえば?」  指輪を嵌めたほっそりとした手が視界にだぶる。  ケイト?  呟きながら突っ伏した。 「さんざん会ってても、向こうはなんも言わなかったんだろ?」  連絡は来なかった…  はじめまして…  … 「…違う……」  彼は泣いていた。 「……ちが…………」  動かした唇が震えて、噛み締める。  テーブルの向こうから、ポツリと声が聞こえた。 「…忘れた方が……幸せだ…」

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