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 誠介に打ったメールの返信がない所を見ると、あいつも忙しいらしい。相談…と言うよりは、問い詰めたい事が色々あったが、捕まらないのではどうしようもない。  仕方なく溜め息を吐いて携帯電話を閉じた。 「眉間に皺、寄ってますよ?」 「あ?…ああ、この前一緒に飲んだ奴に謝罪のメール入れたんだけど、返事がなくて…呆れられたかな?」  そう言うと、その時の事を思い出したのかくすりと微笑む。 「すごく酔ってましたものね。あ、今日早く帰ってこれますか?」 「え?何か用事かな?」 「圭吾を家に招待したんです。忙しい忙しいって全然来てくれなかったから。ちょっと強引に誘ってみたの」 「じゃあ、頑張って早く帰るよ」  そう返事をして家を出る。  ……彼が来る…  オレと、付き合っていた?  実感は湧かなかったが、彼に会えるのだと思うと微かな高揚感が沸き立った。  雨の音に、本から目を上げて窓を見る。  少し前から酷い土砂降りだった。 「すごい雨ね…悪い日に呼んじゃったわね…」  そう言う小夜子のいるキッチンからは、香ばしいいい匂いが立ち込めてきていた。そわそわとインターフォンの辺りを行ったり来たりする彼女に苦笑を漏らす。  本当に、仲のいい姉弟なのだな…と痛感しながら視線を手元に落とした。  部屋の明かりを受けて、結婚指輪が鈍く光を放つ。  小夜子の指に嵌められた物と同じ…  これからケイトとどう付き合っていくかを、あれからずっと考えていたが答えは出なかった。お互い顔合わせで『はじめまして』と言っているのだから、そのまま義兄と義弟の関係を続けるのが一番いいのだろうが…  いつ戻るか分からない記憶が戻った時、オレはそれを良しと思えるのだろうか? 「…さん。秋良さん、お願いしてもいい?」 「え?あ、すまない、もう一度」 「さっき下から連絡があったんだけど、なかなか上がってこないから様子見てきてもらってもいい?今手が離せなくて」  ひょっこりとキッチンから顔を覗かせる彼女に二つ返事で答えてエレベーターへと向かう。大学生の彼がマンション内で迷子になっているなんて考えられない事であったが、夜の営み以外の事ならば、出来る限りどんなささやかな彼女の願いでも叶えてやりたかった。

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