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「ねぇ…圭吾と…秋良さんって……以前から知り合い?」  小夜子の一言に飛び起きそうになったが、アルコールの回った体は思う通りに動いてはくれなかった。  凍りつくような雰囲気だけが二人のいる方から流れて来る。 「…私を見てね、以前してたみたいに、もっと髪を短くして茶色にはもうしないのかって。私、短くした事なんてない…うぅん、長い髪の私しか知らないはずなのに…」  止めなければと思う気持ちと、この会話を聞いていたいと言う願いがせめぎ合う。 「貴方が以前探してた佐藤って…秋良さんの事?」  痛々しい、搾り出すようなその声に胸が痛んだが、それと同時にケイトがオレの事を探していたと言う部分をもっと聞きたかった。  探していた?  オレを?  ケイトはオレを、探していた?  飛び起きそうになった時、不自然な程明るい声が聞こえてきた。 「『ケイト』の指輪なら、持っててもおかしくないよ」 「え?」 「このデザイン流行ってるの知らないでしょ?姉さんこう言うの、疎いから。中見てみて。ちなみに、その指輪のブランドは『ケイト』ね。男にも人気のあるの」  『ケイト』…聞いた事があるような…ないような… 「ブランド名だったんだ…」 「日本で一番多い名字知ってる?」 「…佐藤」 「俺の言う佐藤は大学の佐藤ね」 「…ぅ」 「髪の事にしてもさ、式で使った中に小さい頃の写真あったじゃん。ボブくらいの時の写真」 「あった…かな?」 「あったよ。小さい頃は赤毛で、よくハーフに間違えられてた頃の奴。あれ見たんだろ?」  明るい声が、ぽんぽんと続けられていく。  その、不自然さを、痛感する。  酷く不自然なその言い訳。 「私…変な勘違いしてた?」 「俺じゃなかったらテーブルひっくり返して怒る所だよ?」 「だって…なんだか大事にしてるし……圭吾が同じの持ってたの知ってたから」  すがる人間にはそれすら気付かないものなのか…  こちらで聞きながら、ブランケットの下の手に汗をかいている事に気が付く。  何を願っているのか、固く指を組んで何かに祈るかのように手を握り締めていた。 「同じのって……コレ、一点物じゃないんだからさぁ。あんまりアクセサリー買わない人はよっぽど気に入ったのしか買わないから、大事にするんじゃない?俺のは恭司に買ってもらったけどね」 「恭司さん…て、引越しの時の人よね?」 「そ。オレの恋人」    思考が停止した。  固く組んでいた指から力が抜けてずるりと傍らに落ちる。  先程出た言葉にあった不自然さを探そうと耳を澄ます。 「恭司が俺の、恋人だよ」  重ねられた言葉の重みに、くらりと目が回る。  「圭吾の言うとおりね」  小夜子がそれを肯定し、オレは二人の立場が以前とは違う事に唇を噛み締めた。

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