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 テーブルの上に投げ出された封筒を開けて中を見る。 「で、お前どこの山で頭打ったって?」 「…」  言われて知らない事に気付く。答えないままに封筒の中身を取り出した。  書類が何枚か入っており、明らかな隠し撮りのアングルでの彼の写真が添付されている。 「河原圭吾…結構スゴイ学歴だな……」 「今は『gender free』って所でアルバイトしながら自分で学費出して大学に通ってる。俗に言う苦学生だな」  相も変わらずの無精髭と煙草をすぱすぱと吸う姿に目をやる。 「苦学生?河原の長男がどうして?」 「勘当だそうな」 「はぁ!?」 「…まぁ、ゲイに理解ある人間ばっかりじゃないってこった」  マンションの入り口から、色黒の男と連れ立って出てくる彼の写真に目を留めた。  誰だ?  その写真を見ながら、不機嫌そうな顔をしていたらしい。誠介が苦笑するのが見える。 「谷 恭司、『gender free』の店長兼、恋人だそうだ」 「恋人…恭司…」  あの日、ケイトが言っていた言葉を思い出す。  恋人。 「ま、お前は過去の人って所かな………睨むなよ」 「オレ達は…どんな付き合いをしてたんだ?」 「……この子にも、お前にも新しいパートナーがいるんだし、この辺りで止めとけ」  向かいに座る誠介の胸倉を掴み上げる。 「オレは……っはっきりさせたいだけだ」 「はっきり…ね」  どこか嘲る様に言われて襟を掴む手に力を込めると、流石に苦しくなってきたのか、飄々としたいつもの表情が崩れ始めた。

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