104 / 312
27
「いい加減に…しろよ…っ」
襟を掴み返された拍子にテーブルのコップを倒してしまい、その派手な音に店中の視線がこちらに集まるのを感じた。
居心地悪くなり、仕方なく手を離す。
「はっきりさせて、どうすんだ?あの嫁さんを泣かすのか?この子だって今は別の恋人がいて、幸せそうにしてるだろ?お前のエゴでそれを壊すのか?」
「…」
「相手だって新しい生活をしてるんだ。お前だって新しい生活をするべきだろう?」
低く唸るような言葉に、首を振る。
「いい年して我が儘言うな!」
「…違う」
「お前は…っ」
「新しい生活なんかしてない…」
彼の写った写真を握り締める。
「……まだ…指輪をしてた…」
憐れみの目でこちらを見詰める誠介に手を伸ばす。
「ケイトはまだあの指輪を嵌めているっ!」
憐れみの目を真っ直ぐに向けてこちらに放たれた、辛辣な一言がオレの胸に突き刺さった。
「でも、お前は外したんだろ?」
ともだちにシェアしよう!