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間接照明のせいか、窮屈とも思える細さの階段を下りていく。悪友が調べたケイトのバイト先はこの階段の先にあるはずだ。
彼に、会いたかった。
そして…尋ねたかった。
オレ達に何があったのか…
『gender free』
意味有り気な名前だな…と思いつつノブに手を掛ける。
頭のすぐ上で鳴った木製のベルの音を気にしつつ中へと進むと、「いらっしゃいませ」と言う浅黒い肌の男の隣りで、明らかな動揺を滲ませた目でこちらを見るケイトの姿が見えた。
バーよりは居酒屋の方が馴染みのあるオレは、戸惑いながら飴色のカウンターの方へと足を動かす。
隣に立つ男が、写真の中でケイトと一緒にマンションから出てきていた男だと分かる程度に傍に寄ると、その男がさっとケイトに視線を走らせたのが分かった。
新しい恋人。
その言葉が過ぎり、思わず立ち止まる。
確か…谷?と言ったか…
「い……いらっしゃい。お義兄さん」
カウンターの席を勧められてそこに腰を落ち着ける。
少し疲れている様にも見える彼を見つめた。
「こんばんは、いきなりで驚かせたね」
そう言うと、困った様な雰囲気を滲ませながら小さな笑みを返してくる。明るい場所ではなく、少し薄暗さを感じる店内にいる彼は、その色白さのせいかどこか妖艶に見えた。
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