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密着する二人の体に苛立ちを覚えながら谷を見ると、何か言いたげな挑発的な目がこちらを見下ろしている。
目の前で、ケイトの細い肩に谷が手をかけた。
「今日はもういいよ、先に帰って」
その言葉に、ぼんやりとしていたケイトがはっと我に返るのが分かった。
「じゃあグラス片付けてから」
「いいから」
重ねて言われた言葉に素直に従うケイトにも、苛立ちを感じる。
「お義兄さん、オレ今日はもう上がるから」
一緒に帰りながら、聞きたかった事が聞けるかもしれないと立ち上がった。
どこか喫茶店にでも入って、ゆっくりと話しがしたい。
「じゃあ、一緒に出よう」
そう言ったのと、谷がカウンターに何かを叩きつけるようにして置いたのはほぼ同時だった。
「ケイのお義兄さんだそうですね、こちら奢りです。どうぞ飲み干してからお帰り下さい」
飲み干してから?
その器に並々と入れられた液体がジュースでない事は、幾ら酒に疎いオレでも分かる。
敵意を含ませてオレを見る谷と、カウンターの上の酒を交互に見つめた。
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