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 ビールの中ジョッキ一杯で泥酔してしまうオレには、それを飲み干す事は出来るはずもなく…  悔しいが断ろうとした瞬間、ケイトが笑った。  カウンターの上の器を掴み、勢いよくそれに口をつける。  ぎょっとなったオレと谷を尻目に、白い喉をこくこくと動かしてその器の中の液体を飲み干して行く。  思わず谷と顔を見合わせていると、盛大な音を立ててコップをカウンターへと下ろした。 「ちょ…ケイ!?」  明らかに不自然に傾いだケイトの体を谷が受け止める。  そちら側にいたら自分が受け止めれたのにと、歯噛みしながら名前を呼ぶ。 「圭吾君!?」  激しい感情を滲ませた目がこちらを睨み付ける。 「そんな名前なんか聞きたくないっ!!」  その絶叫に店内がしん…と静まり返る中、崩れ落ちたケイトは涙を流しながら意識を失ってしまった。  谷の腕の中でくたりとなったその姿を見て、ざぁ…と血の気が引くのを感じる。 「きゅ…救急車を…」 「……大丈夫…眠っているだけだから」  こちらを見る事もなくそう言うと、谷はケイトを抱き上げ、興味深げにこちらを見ている客に陽気に話しかけながらスタッフルームへと姿を消した。  追いかける事も、帰る事もできずにカウンターへと座り直して目の前のコップを見る。  並々と注がれていた酒は全て飲み干され、空になったそれがポツリと寂しげだった。

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