110 / 312

33

 スタッフルームから戻った谷が、まだいたのか…と言う表情でこちらを見ながら近付いてくる。 「彼は?」 「寝てますよ。最近、寝不足だったせいでしょう」  そう意味ありげに上げられた片眉を不愉快に思う。  何が言いたい? 「そのくせ、毎日しないと拗ねるんです」 「何が…」 「ナニ?言わないと分かりませんか?」  温くなってしまった烏龍茶を新しい物と替えながら、谷はそう言ってオレの目を覗き込む。 「…あんただろ。ケイの前の相手は」 「…」  咄嗟にYESと答える事が出来ずに口を開きかねていると、こちらを睨む目に力がこもった。 「男と付き合っていたなんて言えないか?」 「ケイトの事を隠したりなんかした事はない!」  ばんっとカウンターを叩いて立ち上がる。  そうだ。  オレは、ケイトの事を隠した事はない。  だからこそ、父はあの時オレを睨んでいたんだ!  男と親しげに話すオレを…  ふら…とカウンターから離れる。 「会計を…」 「いりません」  きっぱりと言われ、力なく肩を竦めて店の扉をくぐって外へ出る。少しひんやりとし始めた夜の空気を吸い込んで携帯を取り出した。

ともだちにシェアしよう!