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調べてくれと頼んだのは、記憶のない間のオレの事すべて…
事細かくメモに書かれたそれを見ていく。
「今のお前よりもそのメモの方がお前については詳しい筈だ」
「急に頼んで悪かったな」
「まぁ、貰うもんは貰えばな、何だってするさ。どうだ?この後酒でも…」
首を振り、メモをポケットに入れて立ち上がる。
「たまには早く帰るよ」
八の字になった誠介の眉を見て、苦笑が漏れてしまう。
「本当に、ここ最近仕事が忙しかったんだ。避けてるわけじゃない」
「……」
「何があったか分かったら、素直にいい夫になるよ」
その言葉に嘘はない。
ケイトにはオレ以外の恋人がいる…オレには妻がいる。
無くした記憶を思い出した所で、もう二人を繋ぐ物は『義兄』と『義弟』と言う物しかない。
「言ったろ?オレは…この漠然とした気持ち悪さを何とかしたいだけだ」
「…そうだったな」
どこまで信じてくれているのかは分からなかったが、この時誠介に言った言葉は本心だった。
「おかえりなさい」と出迎えてくれた小夜子に、曖昧な笑顔しか向ける事の出来ない不甲斐無さに気が沈む。毎日遅く帰るオレを、彼女は食事もせず、眠りもせず、きちんと化粧をしたままの姿で待っていてくれる。
食卓に並ぶ物も、記憶にある限りは同じ物が並んだ事がない。
部屋はいつも清潔にされていたし、散財するような事もない。
そしていつでも笑顔で出迎えてくれる。
「今日は早く帰れて良かった」
「久し振りだから、とても嬉しいです」
そう言って笑ってくれる小夜子の笑顔が好きだ。
共に暮らしていて愛おしい。
間違いなくそう思う。
思う筈なのに…
胸にじんわりと広がる温もりは、彼女を抱きたいと言う熱には変わってはくれなかった。
「でも、ちょっと仕事を持って帰ってきたんだ。夕飯が終わったら書斎に籠るから、先に寝ててくれるかな」
「…お仕事なら…仕方ないですよね」
少し寂しげに、けれど笑顔で言うと、夕飯を温め直す為にキッチンへと消えた。
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