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 そっと音を立てないように家に入ると、リビングの明かりが点いていた。 「かえ…っ…」  ソファーにもたれ掛かりながら、目を閉じる小夜子の姿に唇を噛み締める。  先に休んでいるようにと、連絡は入れていた。けれど、きちんと化粧の施されたままの顔を見るに、そうしなかったのは明らかだった。  間接照明の明かりを受けて、あれ程生き生きとして幸せそうにしていたその顔は、くたびれて疲れて沈んで見える。  見える?  いや…と小さく反論する。  見えるのではなく、実際にそうなのだ。  希望と期待に胸を膨らませて開けてみれば、夫は結婚生活をまともにするような態度ではなく、毎日ふらふらと夜遅くに帰ってくる。  幸せであるはずがない。  本当なら、子供ができたと互いの両親に報告できたかもしれない時期だ。  眠る小夜子の額の髪をそっと払う。 「……」  深い影を落とす長い睫毛、柔らかな曲線の頬、ふっくらと紅をはいた唇。  こうして見ると、ケイトと良く似ている。  その顔を見て、じんわりと愛しさが込み上げると言う事は、愛情があるからなのだろう…  ならば 「きっと、愛せる」  激情でなくとも、ゆっくりと…ゆったりと、愛していけると思う。 「夫婦…だもんな…」  呟いた言葉が、自分自身で空々しく思えたが、それでよかった。  小夜子を抱き上げる。  思ったよりも軽いその体を運びながら、こんな風に彼女に触れた事がなかった事に、今更ながらに気がついた。

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