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彼の案内のままに、初めてラブホテルと言う場所に入った。
今までの彼女とは来る事がなかったな…と思い出していると、彼がぶるりと体を震わせたのが見えた。異様に冷房が効いているように感じたのはオレだけではないようだ。
寒いようならその肩を抱き締めて…とも思ったが、男相手にそれはしていい事なのか分からず、見ているだけになってしまった。
「上がらないの?あ、ごめん。まず入り口でしたい人だった?」
したい…と言われて、それが何を指すのか分からない。
彼がシャツを脱ぎ出して初めてそれが前戯か、それに近いものを指すのだと知る。
「えっと…脱がせたい?」
「あ、いや、どちらでも…」
「シャワーは?ない方がいいならそれでもいいよ」
彼が躊躇う事なくその肌を曝した事に驚き、
「……慣れてるんだな」
と、つい言葉が漏れた。
「何それ、馬鹿にしてんのか?あんただってコレが目当てで出会い系してんだろ?もっと初心な子が来るって信じてた訳?」
そうではない、そうではないが……なんとなく思ってしまったのだ。
彼の初めてが、自分であれば、良かったのに…
「いや…」
明らかにイライラとし出した彼がその長い腕を首に回してきた時、甘い匂いに体が硬直した。
男の匂いなんて、汗臭くて悪臭と言ってもおかしくないと思っていたが…
唇が重なり、舌で唇を舐め上げられる感触に戸惑う。
「…ん……俺じゃやる気起きないんなら、なんで来たのさ」
微かに離した唇の間で漏れた彼の問いを理解するのに時間がかかった。
確かに、自分はぼんやりと立ち尽くしたままだった事に気づく。
やる気がないと、思われてしまったのだろう。
こちらを見つめ返す焦げ茶色の瞳を見ながら、何か言わなければと口を開いた。
「試してみたかったんだ…男と出来るか」
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