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「―――」  彼が消えた風呂場らしき方向から大きな声が聞こえ、心配になってそちらに行ってみたが…  開けてもいいものだろうか? 「…」  扉の前で迷ったが、何かあってもいけないのでそっと扉を押し開ける。 「声が聞こえたが……っな…何をしてるんだ?」  彼が行っていることが理解できず、けれどその卑猥さにゾクリと腰に痺れが走った。   「何してるか?見たままを言ってみて?」  獲物を狙うかのようなその瞳でこちらを見上げ、オレのシャツのボタンを外しながら聞いてくる。  見たまま?  白い肌が紅潮して綺麗だ?  その水に濡れた体が魅力的だ?  抱きたい? 「ん?俺何してた?」  もう一度尋ねられ、どれも違う事に気付く。何をしていたのかと聞かれたのだから、答えは一つだ。 「…ゆ……指を、入れてた」  どこか満足そうに微笑む彼が、首筋を舐め上げてくる。抱き返して、押し倒したい衝動に駆られたが、男同士では手順が違うのかもしれない…と身を引きかけた。  濡れた腕がそれを許さず、唇が合わさる。  差し入れられた舌に応えたものかどうか思案していると、彼はやや不満そうな顔をして唇を離した。 「あんた…キスした事ないの?童貞?」 「…童貞ではないが……」  童貞ではないが…男とは初めてだ。 「どう?男と出来そう?」  そう尋ねられて、その細い肩を掴む。勢いをつけ過ぎたのか、彼の華奢な体がよろめいた。 「男と出来るかわからないが…君となら、出来そうな気がする」

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