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店員に嫌な顔をさせてしまう程、ごり押しして名前入れを急いでもらう。
他の男が割り込めないように、今日会う時には指輪を手渡してきちんと付き合いを始めたかった。
受け取った紙袋を持って走る。
約束している時間に着けるかどうか、微妙な所だった。
思う程早く動かない足に苛つきながら、待ち合わせのあの像の場所が見える所まで来ると、ザワザワとした空気を感じる。
「う…っ」
それがケイトの声だと言う事はすぐに分かった。
「ゴメンナサイは?したら許してやってもいいケド?」
何も考えてなさそうな男に、襟首を掴まれて顔を歪めるケイトを見た途端、頭の中が真っ白になった。
殴ろう…
そう思いながら駆け寄る。
「オラ、どうした!?」
いや、殺してやりたい…
ふつふつと沸き上がる殺意を抱いて、ケイトを掴み上げている手を振り払う。
「私の連れです。離して下さい」
唖然とした男の顔と、背後にかばったケイトの手の震えに少し冷静になれた。
男の手が、乱暴にケイトを突き飛ばす。
「…っ」
ケイトが服を掴んでいなければ、殴り掛かっていた。
「うっぜ…早速男咥え込んでんのかよ。お前、変態なコトされてあんあん腰振んの好きだもんな」
ざわりと沸き起こる殺意に流されようとした時、ケイトが先に拳を振り上げようとした。
咄嗟にそれを止める。
泣きそうなケイト…
他の男の為にそんな顔をして欲しくなかった。
「手が汚れる。行こうか」
ケイトの傍に存在するのが許せない。
少しでも早く離れたくて、腰に回した手に力を込めて歩き出した。
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