141 / 312

64

 ひんやりとした室内の空気に、ケイトは戸惑っているようだった。スリッパを出して上がるように促してリビングへと向かう。  電気をつけると、幾分冷たさは和らいだような気がしたが、どこか寒々しさが残る。 「何か、飲み物を…」 「いらない」 「…」  ドカ…とソファーに乱暴に座るケイトの向かいに、ゆっくりと腰を下ろす。 「ケイト…」 「圭吾だ」 「…」 「いろいろ思い出して…」 「関係ない」  関係ない? 「俺は、あんたと姉さんの事で来たんだ。記憶が戻った事が原因とか言うなよ、下らない」  下らない? 「男と女の事で俺にとやかく言われたくないのかもしれないけど、弟の権利だ、言わせて貰うぞ」  弟? 「姉さんは何も言わなかったけど…あんた何したんだ?」  何? 「姉さんのどこが気に入らないんだ!?」  どこ? 「…どこ……だって?」  そう呟いて一気にテーブルを乗り越え、驚愕の表情を作るケイトを押し倒す。 「っ!?」 「全部っ…全部だっ!彼女はケイトじゃない!それが気に入らないっ!!」  はっと見開いた目が、恐怖を滲ませてこちらを見上げる。  ソファーに広がった黒髪に手を這わせ、その柔らかな髪質を楽しむ。なだらかな曲線の首筋に指先を置くと、びくりと身を竦ませた。  思い出の中にある通りの感度が応える。 「…っ。お前、何言ってんだ?…ちょ……離せ…」 「彼女がケイトなら抱きもした!彼女がケイトなら愛する事も出来たっ!」  首筋を通って、鎖骨に触れる。  ここは皮膚が薄いせいか、すぐに赤く染まる場所だった。

ともだちにシェアしよう!