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ケイトの上から体を起す。
「…ケイト?」
「っ…ぅ………見んな…」
握り締めていた手を離すと、きつくしすぎたのか赤く充血してしまっていた。
「…ケ……」
「もう遅ぇんだよっ!」
腕が、オレの胸を叩く。
「あんたは思い出してすぐなんだろうけど!俺は事故からずっとずっと……あんたが姉さんと結婚するのを見てきてんだ…」
型の良いアーモンド形の瞳からぽろぽろと涙が零れていく。
「綺麗さっぱり、あんたに忘れられて…連絡先も、運び込まれた病院も…名前もわかんねぇし……」
俯くケイトの肩が、細かく震える。
「姉さんと…幸せそうなあんたをずっと見てきたんだ!!やっと納得できたんだ!やっと諦める事ができたんだ!あんたが義兄さんだって事に!あんたに忘れられたって事に!」
肩に触れようとした手は、やはり届く前に弾かれてしまう。
「やっと…夢に見なくなったんだ……姉さんとあんたが…抱き合ってる夢を…」
「……」
「あんたは…義兄さんだ」
「…違う…なりたくてなったわけじゃない…」
「嘘だ!あんたは姉さんと幸せそうだった」
「……」
幸せ?
…確かに、幸せだった。
彼女の事を愛していると勘違いしたままなら…
「どけ」
涙を何度も何度も拭い、ケイトはキッとこちらに視線を向けた。
「あんたと俺は今終わった。これでいいだろ?」
晒されていた肌が隠されていく。
「…駄目だ。終わっても、オレは小夜子とはもう暮らせない」
「ふざけんなっ傷物にしといてそんなあっさり別れるなんて出来る訳が…」
その言葉を遮る。
「傷なんかつけちゃいない」
「え?」
「オレは小夜子を抱いていない」
ぽかん…とした表情は、オレの言った言葉が上手く頭に入っていかなかったせいだろう。
「小夜子じゃ、勃たないんだ…」
開けられたままの唇に、口付ける。
「ケイトなら、勃つ」
呆然としているケイトの手を掴んでオレの股間へと導く、そこにある確かな質量に驚いたように、ケイトはさっと手を引っ込めてしまった。
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