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舌先に感じる塩気を堪能していると、気が緩んだせいか左手を振り払われてしまった。
「…ふっ……ざけんなぁ!!」
振り払った手を握り締めたケイトに殴られ、オレは勢いよくソファーからもんどり打って落ちた。
強かに打ち付けた体と、思いの外しっかり殴られた頬を押さえる。
「っ…」
「何考えてるか、ぜんっぜんわかんねぇ!!」
ぼろぼろと泣きながら仁王立ちするケイトを見上げ、それでもその目にオレの姿が映っているのが…嬉しい。
「っ…こ、こんな痕つけて…恭司になんて言えばいいんだよ!!」
「言わなければいい」
「んな訳に行くかっ!どうやっても見えるだろっ」
「見せなければいい」
「一緒に暮らしてんだぞ!」
「あいつの所になんか帰るな!」
ばんっとテーブルを叩く。
「……ここから…帰したくない」
震える左手を掴む。
ほっそりとした綺麗な手に、引きつれたような傷跡が痛々しかった。
「離せよ」
そう言うが、ケイトの手はオレを振り払おうとはしない。
傷痕に指を這わせ、そっと口付ける。
「オレ以外の誰の目にも触れない様に…閉じ込めたい」
ケイトの世界に、オレ以外の存在なんていらない。
「ば…っかじゃねぇのか…」
ぱた…ぱた…と、手の上に涙が落ちて流れた。
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