145 / 312

68

 舌先に感じる塩気を堪能していると、気が緩んだせいか左手を振り払われてしまった。 「…ふっ……ざけんなぁ!!」  振り払った手を握り締めたケイトに殴られ、オレは勢いよくソファーからもんどり打って落ちた。  強かに打ち付けた体と、思いの外しっかり殴られた頬を押さえる。 「っ…」 「何考えてるか、ぜんっぜんわかんねぇ!!」  ぼろぼろと泣きながら仁王立ちするケイトを見上げ、それでもその目にオレの姿が映っているのが…嬉しい。 「っ…こ、こんな痕つけて…恭司になんて言えばいいんだよ!!」 「言わなければいい」 「んな訳に行くかっ!どうやっても見えるだろっ」 「見せなければいい」 「一緒に暮らしてんだぞ!」 「あいつの所になんか帰るな!」  ばんっとテーブルを叩く。 「……ここから…帰したくない」  震える左手を掴む。  ほっそりとした綺麗な手に、引きつれたような傷跡が痛々しかった。 「離せよ」  そう言うが、ケイトの手はオレを振り払おうとはしない。  傷痕に指を這わせ、そっと口付ける。 「オレ以外の誰の目にも触れない様に…閉じ込めたい」  ケイトの世界に、オレ以外の存在なんていらない。 「ば…っかじゃねぇのか…」  ぱた…ぱた…と、手の上に涙が落ちて流れた。

ともだちにシェアしよう!