150 / 312
3
「はぁ!?」と、携帯電話から恭司の素頓狂な大声が聞こえ、慌てて耳を離す。
「だから、ごめんって!実家でごたついたから、暫く帰れそうにないんだ」
電話の向こうの声が聞こえなくなったのに不安を感じ、圭吾はもしもし?と問いかける。
「……わかったよ。でも勘当になってる家なんだろ?」
「だからって、無関係じゃいられないし…ホントごめんっ」
携帯電話を持っていない方の手を一生懸命拝む形にするが、見える筈もなく。
渋々納得する恭司に、5日程で帰るから…と告げて電話を切る。
それだけあれば、秋良がつけた痕も消えるだろう…と、恭司に対する罪悪感を感じながら唇を噛み締めた。
「………」
狭いビジネスホテルの一室に横になりながら携帯電話を放り出す。
「ごめん……か…」
軽く口から溢す事の出来るその言葉のどこまでが真実なのか…
圭吾自身分からず、首を振って枕へと顔を押し付けた。
「はぁ…」
嘘の電話を終えた安堵からか、弛緩した体にピクリと変化が起こる。
毎日の様に恭司からの愛撫を受けていた体は、今日はまだその刺激を貰っていないと反抗を始めていた。
「…ぅ……」
きつく瞼を閉じ、この指先は自分の物ではないと言い聞かせながら、ゆっくりと首筋に指を這わして行く。
項からなだらかな肩にかけて…
閉じた瞼の裏に、生真面目そうな顔が浮かぶ。忘れようとしていた筈のその顔は、意思に反して繰り返し繰り返し思い描いてしまっていたせいか、細部まではっきりと思い出す事ができた。
「…アキ……っシ…」
身体中をまさぐるその手は自分の物ではなく、繰り返し脳裡に響く名前を呼ぶ声も空耳などではないと言い聞かす。
秋良が体をまさぐる順番を思い出しただけで体がぽっと火照り、腰の辺りに血が集まるのを感じる。
項につけられた無数のキスの痕を辿り、吸われた時の唇のしっとりとした感触や滑りながら皮膚の上を行き来する舌を思い出していく。
ともだちにシェアしよう!