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 すっかり馴染んでしまった部屋を見渡し、忘れ物がないかを見る。  幾ら願おうとも時は流れるもので、すっかり目立たなくなったキスマークを鏡で見ながら苦笑を漏らす。 「消え…ちゃったか」  それがある間だけ秋良の思い出に浸り、懐かしみ、恋い焦がれ、名を呼ぼうと決めていた。  消えた今、秋良に対する気持ちは心の奥にしまってしまわなければならなかった。  でなければ、恭司に会わす顔がない。  それでなくとも、この数日は嘘を吐いて離れて暮らしていたと言うのに… 「さ…もう諦めろ」  鏡の中の自分にそう言い聞かせて、圭吾はこの数日を過ごしたビジネスホテルを後にした。  パタン…と扉を閉める。  いつもならこの音に反応して、恭司が顔を見せるか声をかけるかしてくる筈だった。 「恭司?…出掛けてるのか?」  余程の事がない限り、仕事に備えてこの午前中の時間は家で休んでいるのが常だ。  キッチンに足を踏み入れると、テーブルに突っ伏した恭司が見えた。 「なんだ、そんなとこで寝てんのか?」  そう声をかけながら、ブランケットを探す。  サーファーでがっちりとした体の恭司が圭吾を抱きかかえて運ぶ事は可能だが、その逆は難しかった。 「…………いや、起きてるよ」  ふぅ…と盛大な溜め息と共に体を起こし、圭吾を見上げる。  その気だるげな雰囲気の中に、何かいつもの恭司とは違う部分を見た気がして圭吾はどきりと体を強張らせた。 「た……ただいま」 「うん………おかえり」  この数日間の間の罪悪感がふつ…と胸に沸き起こる。

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