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「お姉さん、どうだった?」 「う…ん、大丈夫」  そう…と返して立ち上がる。 「飯は?」 「恭司が食うなら一緒に」 「ん…」  キッチンに向かおうとした恭司が立ち止まり、圭吾の方を振り返った。 「やっぱり、止めた」 「?」  怪訝な顔をしていると恭司の指先が頬に触れ、くすぐるように顔のラインに沿って動かされる。 「食うよりもベッドに行かない?」  そう言われ、答えようとした言葉が喉に詰まり、口を閉じて曖昧に頷く。  秋良に触れられた箇所を他の人間に、それが例え恋人である恭司だとしても触れられたくはなかった。  秋良の事を諦めようとしてできない自分に苦い思いが過る。 「行きたくない?」 「ん…実家で疲れたから…」  そう言って部屋へ踵を返そうとすると、腕を掴まれて引き寄せられる。逞しい腕に抱きすくめられて圭吾ははっと息を止めた。  どっどっ…と心臓が脈打つ音が耳の中に響く。 「きょ…う…」  恭司の馴染んだ指先が背筋をつっ…と撫でると、それだけで圭吾の体がびくりと跳ねた。  二度、三度撫でられると、その度にびくびくと体は反応する。 「あ…ぁんっ……、ど…した?」 「ん?別に」  体を震わせている圭吾とは対照的に、恭司はどこかぼんやりとした声音で返す。  温かな手がシャツの裾から入り、骨の上の薄い皮膚を這い上がって行く。少しかさついたような唇が耳元に寄せられて熱い息を吐いた。 「…んっ」  耳をくすぐる息に、体が戦慄いて力が抜ける。 「ちょ…っストップ!…っ、あっ」  かくんと膝から力が抜け、思わず恭司にしがみつく。  探り当てられた胸の突起を弄られながら、深く口づけされてしまえば、圭吾は逆らおうと腕を突っぱねることも出来なくなっていた。

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