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 ガシャン…と腕に当たった花瓶が床に落ちて砕けた音がした。 「あっ!!」 「いい、後で片付けるから」  ダイニングテーブルに押さえ付けられながら、自分が落としてしまった花瓶に気をとられる圭吾にそう言うと、恭司は引き締まった双丘を割って指先を秘部に這わせる。 「だって…ぁっ!」  つぷ…と入り込んだ指先に短い間声を上げると、何かを含むような声が耳元で囁く。 「ずいぶん柔らかいね」  指一本を含んですぐに馴染んだアナにもう一本指を足しながら言う恭司に、むっとなって言い返す。 「っ、…何…言いたい?」 「別に。暫くヤってなかったにしては、指が入りやすいって思っただけだよ」  拗ねた口調が気に入らず、圭吾は俯せに押さえ付けられた姿勢から、無理矢理体を捻って恭司の方へと向いた。  いつもなら茶目っ気を含んだ垂れ目が、きつい眼差しになっているのに息を飲んだ。  ごくりと動く圭吾の喉に、浅黒い指先が伸びてくる。 「きょ…う…」 「浮気、した?」  くっ…と指先が曲がり、力が込められる。  呼吸を邪魔しないものの、首を掴まれていると言う行為に身がすくむ。 「…して、ない」  声をなんとか絞り出す。  何を以て浮気とするのか、その線引きは曖昧だったが、恭司以外との肉体関係と言うのなら、浮気はしていない。 「…自分で……毎日してた」  嘘ではない。  そっと首に添えられている手に触れると、呆気ない程あっさりと指は離れて行く。  硬い表情を浮かべる瞳を見たくなくて、目を閉じて恭司に口づける。腕を伸ばして頭を掻き抱き、少し海水でパサついている長めの髪に指を絡めた。 「恭司の事、考えながらずっと自分でイジってた」  唾液の糸を引く唇でそう嘘を吐く。  想像の中で圭吾を犯し続けていたのは、恭司ではなく秋良だったのだけれど…

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