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「もう、終わったよ」  秋良が心配をかけた誠介にそう返すと、苦い声でそうか…と返事が返される。  携帯電話の沈黙が嫌で、忙しいからと通話を切る。  実際は忙しくはなかった。  小夜子を迎えに行く為に一日休みをとっていたから。 「…ふぅ」  煙草を吸えたなら、煙を吐く動作で誤魔化す事も出来たのだろうが、生憎と秋良に喫煙の習慣がなかった為、盛大な溜め息が漏れた。 「やっぱり似てる…な」  妻と義弟の顔を思い浮かべ、以前に思っていたよりも二人の顔が似ている事を改めて痛感する。  その顔を見ているのが辛くて、会社があるからと嘘を吐いた。 「…け……」  圭吾の名を呼びたくなって口を開きかけたが、会いたさが募るだけだと思い直して止める。  会うだけなら幾らでも出来る。  ただし、義兄として…  それが圭吾の望みだったから。  何も目的を思い付かないまま、秋良はぶらりと街を歩く。男女のカップルが手を繋いで歩いていくのを見やりながら、圭吾ともう少し様々な場所へ行けばよかったと胸の中で呟く。  圭吾との思い出を辿りながら街中をさ迷っていく。  出会いの場所となった鳥と少女の像の場所へ行き、そこに座り込んで泣きそうな顔をしていた事を思い出し、初めて二人で入ったホテルのある方へと向かった。  行き過ぎ、また戻る。  確かここに…と、ホテルを探して付近を徘徊していると、仲良く連れだった男女に怪訝な顔をされてしまう。  気まずくなって足早にそこを離れながら振り返ると、圭吾と初めて過ごしたホテルの看板が違う名前に変わっている事に気が付いた。 「……」  外装もガラリと変わってしまっている事を考ると、あの部屋があのままだとは思えない。秋良はズキリと胸を穿つ寂寥感を感じながら歩き出した。

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