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 それは穏やかな日々だった。  朝起きると、食事をし、会社に行き、働き、帰れば、食事、風呂…そして就寝。  相変わらず床を同じくはしなかったが、それ以外の事に関してはきめ細やかに小夜子の話を聞いて話し、休みの日には二人一緒に出掛けた。 秋良は、そうする事で圭吾が一番大事だと言った小夜子が、満足し、笑顔でいる事に安堵していた。  圭吾の願いを叶えている。  その満足感にすがり付きながら同じ食卓について笑いを顔に浮かべる。 「……圭吾を…」 「え」  思わず声を上げた秋良を、小夜子は眉を潜めて怪訝そうに見やりながら、生姜焼きを食べようとした手を止めた。 「いやだった?」 「あ、…すまない、よく聞こえなくて」 「また圭吾を家に呼んでもいいかしら?」  軽く小首を傾げて尋ねてくる動作は圭吾のそれと良く似ている。 「……うん、大丈夫」 「仕事で疲れてるんだし、嫌だったらいいのよ?」  一瞬出来た返答の間を小夜子は否定と受け取ったようだった。  秋良はにっこりと笑みを浮かべ直すと緩く首を振って見せ、「いやなんかじゃないよ」と精一杯の穏やかな声で返事をしてみせる。 「そう?よかった!その日ね、食事は圭吾の好きな……」  秋良の知らない圭吾の好物が並べられて行くのを聞きながら、嬉しそうに笑う小夜子と圭吾の相違点を一つずつ数えていく。  圭吾が来る。  その事に安堵を覚えると同時に、複雑な心境を抱え込まざるを得なかった。

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